古民家暮らしに興味があるんだけど、「住んでみたら不便」なんてことは嫌だな…。
住まいの間取りは、暮らしやすさに大きく影響します。賃貸のお部屋を選ぶときも、玄関の広さ、脱衣所の有無、洗濯機置き場をチェックしますよね。
現代の住まいでは、古民家の間取りと特徴が異なります。時代によって人々の暮らし方が変化したから、それは仕方ないですよね。
とはいえ、住み始めてから間取りが合わないと分かったらストレスを抱えてしまいます。間取りを変えるなら、住み始める前です。
古民家の持つ、間取りの特徴をおさえて工夫すれば、理想の古民家暮らしがかないます。
古民家の間取りに見られる特徴として、縁側(えんがわ)と軒(のき)、土間(どま)の存在があります。
古民家の魅力(みりょく)と注意点、両方を確認していきましょう。
古民家の間取りには特徴的な3つの空間がある
古民家の間取りに見られる特徴的な空間には、縁側(えんがわ)と軒(のき)、土間(どま)があります。それぞれの特徴について、より詳しくみていきます。
家事や在宅ワークの合間に、外の空気を吸ってリフレッシュしたい…そんなときに便利ですよね。
日常生活だけでなく、月見で一杯、花火の特等席など、季節のイベントでも活躍します。
軒の有無により、夏の涼しさが大きく左右されます。外気とのクッション材の役目を果たし、室温を快適に保ちやすくなるからです。
直射日光をさえぎるので、たたみの日焼け防止にも役立ちますよ。もし軒が老朽化していれば、建て替えをおすすめします。
「くつを脱いで歩く場所には置きたくないモノ」が気軽に置けます。大変使い勝手がいい空間と言えるでしょう。
場合によっては、自転車を置くこともできますよ。大切な自転車を紫外線や急な雨から守れるところがいいですね。
なお、元からの土間に手を加える場合は仕上げる素材を検討しておくと良いでしょう。
タイル張りを目指すと費用がかさみますが、「モルタル金鏝(かなごて)抑え」だとリーズナブルに仕上がります。
古民家の特徴ある間取りには「こんな空間が欲しかった!」と言わせるような魅力(みりょく)があります。
この特徴を知った上で間取りを考えれば、古民家だからかなう暮らしができますね。
古民家で間取りの典型例は「田の字型」
古民家の間取りには、典型的なパターンがあります。
部屋が漢字で「田」の字に見えるよう並んでいる状態です。「田の字型」と呼ばれます。
「田の字型」ではふすまによって部屋と部屋が連続しているので、必要に応じて空間を仕切り直せる長所を持っているんです。
漢字で、間取り変更をイメージしてみましょう。
「田」の字を大きく頭に浮かべてください。四角の中にある十字部分がふすまに当たります。
もしも、このふすまである十字を取り外したら、「田」から「日」、最後には「口」になりますね。
「田」のとき4つあった部屋を、「日」や「口」のときは広い部屋1〜2つに変更できるということです。
ふすまを外すことで空間の使い方を変えられるから、古民家の間取りに多く選ばれてきたと考えられます。
比較的自由に間取りが変更できると分かったら、あなたにとって理想の住まい像も描きやすくなりますね♪
古民家の特徴は建具(たてぐ)・収納・水回りにも
古民家の間取りについて、さらに細かく見るなら、建具、収納、水回りに注目しましょう。それぞれの特徴を簡単にまとめます。
- 建具は引き戸やふすま
- 収納場所が押入れしかない
- キッチンが対面式ではない
- 水回りの使い勝手がいまいち(トイレと風呂場)
<建具>
建具は、部屋の仕切りに使うものです。引き戸、ふすまなどがあります。
引き戸は、開閉するための空間を必要としません。扉よりも部屋を広く使いやすい利点がありますよ。
また、扉の開閉によって照明の光量が左右される心配もいりません。
先ほど「田の字型の間取りでは、ふすまを外すと空間の使い方を変えられる」とお伝えしました。
ドアで仕切るよりも柔軟性があり、用途に合わせて空間のサイズを調整できるのですね。
歴史もののドラマを思い出してください。奥に将軍がいて、手前のふすまがスッと開く演出がありますよね。
もしあのふすまを取り外したら、家臣がいる手前の空間と、将軍がいた奥の空間が一つにつながり、一気に大きな空間が得られるわけです。
引き戸やふすまの持つメリットを知った上で、検討するといいですね。
ドアにしないけれど現代風に変えたい場合は、ロールスクリーンやアコーディオンカーテンがあります。
引き戸・ふすまにも利点があるのですね。
じゃあ、「収納が押入れしかない」「キッチンが対面式ではない」「水回りの使い勝手がいまいち」ってどういうこと?
<収納>
古民家の場合、和室の押入れが唯一の収納スペースです。
一方現代の住まいでは、クローゼットやシューズクロークのように、必要な空間にそれぞれ収納が配置されることがほとんどです。
現代の感覚でモノを片付けようとすると、「置きたい場所に収納がないよ」と困る場面が出てきます。
そのため、押入れだけでは「収納力が足りない」と感じる方が多いのです。
<キッチン>
古民家のキッチンは居間(リビングルーム)から離れていることが多いです。
サザエさんの磯野家を浮かべてください。サザエさんが台所で食事の用意をしているとき、茶の間にいる家族の姿は見えないですよね。
一方、現代の住まいは対面式キッチンが主流になりつつあります。作業をしながら家族と話ができるようなスタイルです。
<水回り>
トイレは、間取りからぴょんと突き出た位置にあることが多いです。例えば、縁側の突き当たりや、廊下の一番奥などです。トイレが間取りから離れているんです。
離れているのにも訳があります。下水道が整備される前は、住居から距離を取ることが唯一の衛生対策でした。快適に暮らすために必要な距離だったわけです。
しかし、現代の私たちは下水道が整備された社会の中で生きています。
距離を取る必要は無くなったのに、トイレへ行くためだけに縁側や廊下をそろそろと歩いていく…想像しただけで寒〜いですよね。
お風呂場も、住まいに対してとってつけたような、クセのある間取りが多いです。基本的に脱衣所がない点も注意しましょう。
また、タイル張りの浴室は非常に冷えることにも注目です。古民家のトイレとお風呂は問題になりやすいため、思い切った改修も視野に入れましょう。
特に収納と水回りの場所を注意しておくと、より自分の生活にあった古民家の間取りを描きやすくなります。特徴をおさえておけば、失敗のリスクを小さくできますね。
古民家の目安は築50年が経っていること
そもそも古民家には、厳密な定義はありません。ひとつの目安として、築50年経過していると古民家と呼ばれやすいです。
一般社団法人全国古民家再生協会の定義によれば、1950年時点か、それ以前の建築方法を用いていることがポイントです。要点を整理してみると、次のようになります。
- 築50年経過している
- かやぶき屋根、日本瓦ぶき屋根が見られる
- 土間や、太い梁(はり)がある
梁と言われると「なんだそれ?」と思う方もいるかもしれませんね。梁は、ざっくりいえば建物の柱と柱をつなげるパーツです。
文化財と呼ばれるような古建築が好きな私としては、構造をグッと支えている姿がカッコいい…そんなパーツです。梁は大きなパーツなので見つけやすいと思います。
古民家のリノベーションでは梁がしっかり見えるように、保温性を犠牲にして天井を高く保つ場合もあります。これも古民家らしさを残すための選択だと言えますよね。
古民家の間取りを指す名称は仏間・式台などがある
古民家の間取りについてインターネットを使って情報を集めようにも、それぞれの名称がわからないとつらいですよね。
しかも、間取りに対する名称は地域によって異なる場合もあるから、余計に難しいんです。
古民家で間取りの名称には、縁側・軒・土間に加え、仏間(ぶつま)、式台(しきだい)などがあります。
ここでは、幕末期の福井県に建てられた庄屋(しょうや)さんの住まい、旧城地家(じょうちけ)住宅を見てみましょう。
庄屋さんは、村の代表としてまとめ役を務めたおうちです。
年貢(税金)の負担を決めたり、水路工事などの監督をしたりしました。庄屋さんの住まいでは間取りに、こんな名称がついています。
- にわ (=土間)
- だいどころ (台所)
- ながし (流し)
- しきだい (式台)
- ぶつま (仏間)
- ざしき (座敷)
<にわ>
「にわ」と聞くと、ガーデン、庭園の方を浮かべますよね。庄屋さんの住まいでは「にわ」というと玄関から入ってすぐの空間を指します。
先ほど紹介した土間のことを、ここでは「にわ」と呼んでいたんです。
<だいどころ>
「だいどころ」は名前の通り、食事の煮炊きをする場所です。いろりがあるのもここですよ。
いろりを囲んで一緒に食事をすることもでき、現在のダイニングキッチンに通じる部分がありますね。
地域によって「おい」や「おいえ」とも呼ばれるので注意しましょう。なお、かまどのことを「おくどさん」と呼ぶ地域もありますよ。
<ながし>
「ながし」は名前の通り洗い物や洗濯をする場所です。水道のなかった時代は、家の井戸を利用するか、川の水を溜めておいて利用したんですね。
古民家の水回りが住宅から少し離れている背景には、水源の問題があったんです。
<しきだい>
「しきだい」は特別なお客さんの玄関だと言えるでしょう。漢字で書くと「式台」で、これは京都の二条城二の丸御殿のような書院造(しょいんづくり)建築でも見られます。
<ぶつま>
「ぶつま」は仏像や位牌(いはい)を安置する空間で、こちらの庄屋さんの場合は「しきだい」から招かれたお客様が必ず通る空間でした。漢字で書くと「仏間」です。
<ざしき>
「ざしき」は、基本的に特別なお客様を招き入れるお部屋です。現代でいう応接間にあたります。
これは余談ですが、庄屋さんにとっての特別なお客様とは僧侶や神主さんのことです。
一口に古民家と言っても、さまざま住まいがあります。農村の庄屋さんと都市の町屋さん(商人)で、それぞれ住まいを比べてみるのも面白いですよ。
古民家の間取りをリノベーションする時は目的を決める
古民家の間取りは、手を加えれば見違えるように変化します。間取りを大掛かりに変更する場合は、リノベーションをすることになります。
大切なのはリノベーションでどんな効果を得たいのか決めておくことです。
古民家の良さを生かすのか、「これ古民家だったの!?」と驚くほど変化させたいのか…あなたのイメージはどちらでしょうか?たとえば、こんな内容があると思います。
- 日本家屋が好きで、和室を主役として残したい
- 水回りの使いやすさを改善したい
- 今後のため、バリアフリーにこだわりたい
- 自炊が好きなので、使いやすいキッチンは譲れない
あなたの理想を、しっかり業者の方に伝えたらいいですね。
これから決めようかな?というあなたは、いろいろな事例を見ていきましょう。普段の生活で好きな時間や不便に思っていることがヒントになることもありますよ。
ちなみに、「リノベーション」と似た言葉で、「リフォーム」もありますよね。違いを確認してみました。
作業例 | |
リノベーション | 間取りの変更、水道管・排水管の変更 |
リフォーム | 壁紙(クロス)の貼り替え、キッチン・ユニットバスの交換、外壁の塗り替え |
ただしリノベーションとリフォームは、混同されることも多いです。「間取りを変更するリフォーム」という表現を見ても、慌てないでください。
この場合は、リフォームが「住まいに手を加えること全般」の意味で使われています。
住みやすいように間取りを変更する場合、リノベーションにしろリフォームにしろ、あなたの希望をしっかり伝えることが大切ですね!
古民家リノベの希望を確実に伝える基礎知識
リノベーションの希望はなんとなくあるけど、どう伝えればいいのかわからない…。
伝え方って大事ですよね。一口に古民家のリノベーションといっても「古民家再生」「古民家リノベーション」「古民家風リノベーション」という種類があります。
言葉は似ていますが、異なる内容を指しています。
うまくイメージを共有できないと、完成してから「あれ…なんか違った…」なんて悲しいことが起きてしまいます。
- 古民家再生…「再生」の通り、古民家らしい状態に戻す
- 古民家リノベーション…大胆に現代風のリノベーションをする
- 古民家風リノベーション…現代家屋の外観・内観を古民家”風”にリノベーションする
この記事をご覧のあなたは、大胆に現代風の変化をさせる「古民家リノベーション」を目指しているのではないでしょうか。
その場合は、業者の方に「古民家リノベーション」をしたい、ということを伝えましょう!
上手な古民家リノベーションは柱・壁・玄関を変えない
古民家が持っている特徴を味方につけると、理想のリノベーションに近づきます。
新しい間取りを作るためには、今ある空間を最大限活用したいですよね。
古民家の空間が持っている特徴を知っておくと、元の構造を生かしたリノベーションができます。具体的には、この二つが基本になります。
- 柱と壁の位置を変えない
- 玄関の場所を変えない
柱、壁の位置を変えずにリノベーションすれば、元の構造を生かすことができます。コストの軽減にも繋がりますよ。
玄関は、家の顔です。古民家らしさを保つためにも、変えない方がいいですよ。
古民家が元から持っている構造を利用した間取りを考えれば、空間の使いやすさをかなえた上で費用軽減にも貢献できるんですね。
「田の字型」を活かす間取りパターン3選
古民家の間取りに典型的な「田の字型」は引き戸やふすまで仕切るものでした。だからこそ、空間変更がしやすい特徴がありましたね。
ここからは田の字型を活かしたリノベーション例を3つ挙げていきます。なお、「田の字」の中身は「和室・寝室」と捉えておくとイメージがつきやすいですよ。
古民家ではずれの位置に置かれやすいトイレやお風呂を移動させるプランです。
水回りへのアクセスがよくなって利便性が上がる分、水回りの位置を変える分の設備工事代が発生します。
また、この間取りではキッチンが隅に追いやられがちです。
1つ目のパターンと同じように水回りを移動させた上で、キッチンを家の真ん中に配置します。「田の字」の形を崩してもよければ、採用できるでしょう。
「田の字」を崩してキッチン動線を取るパターン2か、「田の字」を守ることを優先するパターン1か、ここは価値観によって分かれそうです。
ただし、水回りの位置を変えないことがプラスになる場合もあるんです。
年配の方が長く暮らしているケースでは、「現在の間取りに慣れているから変えなくていい」と感じられることもあるからです。
住まいを引き継ぐお子さんが「使いづらい」と思うのは仕方ないので、家族会議が必要です。あなたの間取りも、水回りの使い勝手と予算の都合に応じて選ぶといいですね。
必読!古民家リノベーションの注意点6つ
目的を決めたら、あなたの理想をかなえる準備を始めたいですよね。
ここで注意しておきたい6つのポイントをチェックしましょう。流れに沿って紹介します。
- 工事費と物件購入費のバランスを考慮する
- 工事期間中の仮住まいを用意、追加費用も考慮
- 利用できる補助金・減税制度を確認する
- 内部構造の劣化は解体しないと分からない
- 耐震補強を行う
- 断熱性、ヒートショック対策も検討する
<工事費と物件購入費のバランス>
そもそもリノベーションの費用相場は、面積や使う素材のグレード、劣化状況、工事規模によって変わります。
盲点ですが廃材処理費がかさむ場合もありますし、平均値を示しづらいのです。
ですが、古民家選びの基準はお伝えできます。「工事費と物件購入費のバランスが取れるか」です。物件自体が安くても、工事費が高額になれば意味がありません。
<工事期間中の仮住まい>
住み始めた後にリノベーションするなら、工事中、仮住まいの手配も忘れないようご注意ください。
賃貸を借りる場合は追加の費用と手続きも発生しますので、早めに進めましょう。近くに頼れる方がいる場合も、早めに相談しておきたいのは同じですよね。
<補助金・減税制度の確認>
なお古民家リノベーションでは、補助金や減税制度が利用できるケースがあります。
補助金の例でいうと、国立研究開発法人建築研究所の「長期優良住宅化リフォーム推進事業」があります。
さらに一般社団法人環境共創イニシアチブによる「高性能建材による住宅の断熱リフォーム支援事業」「次世代省エネ建材の実証支援事業」なども当てはまります。
減税制度では、投資型・ローン型の所得税控除、固定資産税の減額、不動産所得税の軽減措置が受けられる場合があります。お近くの税務署窓口で相談してみましょう。
固定資産税は、築年数により税額が決まるルールがあります。これを利用すると、新築建て替えよりも税金を軽減できるメリットがあります。
固定資産税の軽減を狙ってリフォームする場合は、増築前に該当する自治体窓口で相談しましょう。築年数の古い住宅は、そもそも増築許可が下りないこともあるからです。
<劣化状況は解体中にわかる>
そして古民家では、工事が始まってから劣化状況が分かる場合があります。解体したり、床板をはがしたりすることで隠れていた構造の傷みが判明するんですね。
想定外の傷みによって、計画を変更する場合もあると思います。予算に余裕を持たせておくと安心です。
<古民家の耐震補強>
古民家の安全や機能面で気になるのは、やはり耐震性、断熱性でしょう。基本的に「古民家には耐震補強工事が推奨されている」と覚えると良いです。
特に1950年から1981年までに建てられている場合、耐震性が低いと考えられます。古い耐震基準で建てられているからです。
<断熱性、ヒートショック対策>
断熱性は耐震補強のような基準こそありませんが、命に関わるポイントですよね。
最近では報道番組でもヒートショックの危険性が指摘されています。住まいの中に潜む温度差は、目に見えない危険だと言えるでしょう。
住まいの暖かさを保つ方法は床暖房の設置だけではありません。
窓を複層ガラスにする、タイル張りの浴室をシステムバスに交換するだけでも改善しますので、予算の許す限り対策をしてください。
まとめ
- 古民家の間取りに特徴的な空間は、縁側(えんがわ)と軒(のき)と土間(どま)
- 引き戸とふすまは空間を広く使いやすい
- 古民家の水回りはたいてい改修が必須
- 古民家に特徴的な間取りは「田の字型」
- 古民家と呼ばれるのは、築50年が経過し伝統工法で建てられている事例が多い
- 間取り変更はリノベーションに該当する
- 柱・壁・玄関の位置を変えずにリノベーションすると、元の空間を活かせる
- 古民家を選ぶときは工事費と物件購入費のバランスを考える
- リノベーションに補助金・減税制度を利用できる場合がある
- 必ず耐震補強を行い、断熱工事も検討する
あなたにとって理想の古民家暮らしはどんなものでしょうか?考え選び、実行することがたくさんありますが、ひとつずつ進んでいきましょう。
ある程度理想像がある方も、これから描く方も、間取りの特徴をおさえて素敵な古民家暮らしをかなえてくださいね。
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