雪道で活躍するタイヤチェーン、私のイメージは金属製でごつごつしていて、付け外しが難しいイメージです。私一人ではとても付けられません。
しかしそれも昔の話です。今ではゴム製、布製のタイヤチェーンも登場しています。
特に布製は軽くて付け外ししやすく、タイヤと車体の隙間(クリアランス)が狭い車にも使用できます。それにコンパクトで収納場所を取りません。
唯一気になるのは布の耐久性で、金属製よりも破れやすいを思われやすいです。
耐久性を走行距離に例えるなら、雪道は数百km以上も走行できます。また、金属製やゴム製では不向きな乾いた路面でも、80kmくらいなら走行できます。
今回は、布製のタイヤチェーンが耐久性に優れている秘密を解説します。
布製タイヤチェーンの耐久性は路面による

布製のタイヤチェーンは、雪や氷の上での走行を想定して開発されています。そのため雪道なら数百km走行しても破れません。
あたらしい雪がふわふわに積もった状態でも、他の車が通って踏み固められた雪の上でも、布の繊維が雪をしっかりとらえてくれるため、スピンもしにくいです。
しかし雪がほとんどない乾いた路面やアスファルトでは、少なくとも80km、長くても120kmくらいです。
もともと布製のタイヤチェーンは、突然雪に見舞われたときのためでも無事に家まで帰れるよう、緊急走行用として開発されました。
金属製やゴム製のタイヤチェーンなら、もし走行中に雪道が少なくなって道路がアスファルトのみになってきたら、取り外さなくてはなりません。
近くにガソリンスタンドや駐車場がなければ、タイヤチェーンを巻いたままそのまま走行しなくてはなりません。
金属製なら振動や騒音が響きますし、タイヤチェーンが壊れれば事故になります。
しかし、布製の場合は振動も少ないため、自宅や大きな駐車場などの目的地までなら、装着したままストレスなく走行できるのです。
雪でもへっちゃらな秘密は合成繊維にある
布製のタイヤチェーンは、雪の表面とタイヤ部分の間で摩擦を起こす仕組みになっています。これにより、車体を引っ張る力(トラクション)が発生して走行しやすくなります。
使用している布はメーカーにもよりますが、どのメーカーでも強度や質が高い合成繊維を使っています。
なかには、セメントの補強素材でもある「アラミド」という素材を配合しているメーカーもあります。
そして合成繊維の表面を毛羽立たせることにより、タイヤが雪に密着しやすくなります。これにより、タイヤのグリップ力が向上します。
また、合成繊維は凍り付いた道路でも活躍します。凍った路面には水の膜が張っていてタイヤが密着しにくいのですが、そこで合成繊維が路面の水を吸い込んでくれます。
路面とタイヤが密着すると摩擦力が生まれるため、タイヤの空回り(スタック)や滑り、スピンも起きにくくなるのですね。
メンテナンスで耐久性を維持できる
布製のタイヤチェーンを開発したばかりの頃は使い捨ての製品でしたが、現在は繰り返し使えるように改良されています。
そのためには、メンテナンスが必要です。使用後には洗って汚れを落としましょう。
特殊な合成繊維だとしても、金属製やゴム製と違って布は水を吸い込みます。使用すると、雪や氷から水分や汚れをたくさん吸い取っています。
汚れたまま保管すると、繊維が布の中に蓄積していきます。そのまま保管すると、知らない間に劣化が進み耐久性も下がります。
いざ緊急時に乾いた路面を走ることになったとしても、耐久性が下がっていればすぐボロボロになってしまいます。
メンテナンス方法もメーカーによりますが、手洗い、洗濯機、40度のお湯で洗う、など様々です。
お湯で手洗いできる製品なら、真冬でも手が凍えずにじゃぶじゃぶ洗えます。また洗濯機で丸洗いできれば、家事の合間に洗えて楽ちんですね♪
ちなみに、布が2層構造になっている場合、外側の布が擦り切れて、内側の布が見えてきたら交換のサインです。
その他にも、表面の縫い目がほつれてきたり、3cm以上の穴が開いたり、明らかに布が劣化していたら交換しましょう。
布製のタイヤチェーンは速度を落として走行する

雪道は、ただでさえスピードを上げすぎるとタイヤが滑る(ホイールスピン)ため、事故になってしまいます。
布製のタイヤチェーンも、速度が速すぎると耐えられません。一般車両は時速40~50km、大型車両なら時速30kmまでで走行するよう推奨しています。
速度を出しすぎると、エンジンの力が路面に伝わりにくくなります。
また、布と雪の摩擦力もなくなり、ホイールスピンを起こすのです。
私が小学生の頃、目の前でホイールスピンを見たことがあります。年始に大雪が降る中、親戚の家から車で帰宅していた時の話です。
なんと、前を走っていた車がいきなり雪道で滑ってスピンを起こし、ガードレールにぶつかってしまったのです。
雪に慣れていない私たち家族はそれを見て、「安全に帰ろう。」と心をひとつにしました。その後スピードを出さずゆっくり運転して、無事に帰宅できたのでした。
タイヤチェーンを装着しているからといってスピードを出さずゆっくり走行すれば、カーブでも小回りができます。
タイヤに余計な力を入れず、スピンも起こしにくくなりますよ。
布製のタイヤチェーンは規制中でもOK

2018年には、大雪が降ったときにタイヤチェーンの装着を義務付ける「チェーン規制」が、国土交通省から発表されました。
この規制で許可されているものは、カー用品店で販売されているタイヤチェーンです。
チェーン規制後は、金属製だけでなく、布製やゴム製も規制適合品であれば使用を認められています。
国土交通省も参考例として「アラミドなど特殊繊維製」の布製カバータイプを紹介しています。
また、道路交通会社のNEXCO東日本は、いち早く布製のタイヤチェーンに目を付けています。
チェーン規制が開始されたころ、どの交通会社よりもいち早く、自社のショッピングサイトで布製のタイヤチェーンを販売し始めました。
またその翌年から、管轄内のパトロールカーにも布製のタイヤチェーンを装備し始めました。
大雪で動けなくなった車を1秒でも早く助けるため、最新アイテムを導入したのですね。
布製やゴム製はJASAA認定のみ使える
ゴム製や布製は、「非金属タイヤチェーン」と呼ばれます。
非金属製の場合、JASAA(ジャサ)(日本移動者交通安全用品協会)という機関より認定を受けた「規制適合品」のみ、チェーン規制で認められています。
JASAAで定めている認定基準は、以下のとおりです。
- 道路を傷つけない
- 高速道路内の坂道でも問題なく走行できる
- 係員の指示に従いつつ、装着したまま関越トンネルを走行できる
- 付け外しがしやすい
- 走行がなめらか
- 路面が凍結(アイスバーン)していても走行できる
- 雪道で600km以上走行しても破損しない
走行のしやすさ、耐久性はもちろんですが、万が一乾いた路面でも走行ができるかどうかも加味されます。それがトンネルの話です。
外が大雪でもトンネルの中では雪が降りません。そのため、中に入れば入るほど、乾いた路面と同じ状態になるのです。
この代表例として、全長1.1km、日本で2番目に長い「関越トンネル」を挙げています。
関越トンネルは群馬県と新潟県をまたいでいます。冬にはこの地域に大雪が降るため、チェーンを巻いたままの車が行き来するのです。
金属製のチェーンを装着したままトンネルを走行すると、路面が傷つくだけでなく、チェーンが切れて他の車に飛び散ってしまうのです。
そのため、関越トンネルのように全長が長すぎるトンネルでは、金属製のチェーンで走行することが禁止されています。
また、取り外しがしやすいことも重要なポイントです。布製の場合、パーキングエリアなどで30分以上停車するときには必ず外します。
布製は水分を吸い込みやすいです。装着したまま30分以上停車していると、吸い込んだ水分が冷気にさらされて、合成繊維が凍り付きます。そのまま走行すると、事故になってしまいます。
金属製やゴム製は水分を吸い込まないためある程度装着していても問題ないのですが、停車するごとに付け外しするのも面倒ですよね。
付け外しがしやすくなることで、布製タイヤチェーンのデメリットをうまく補うことができるのです。
なぜ規制がかかるようになったのか
チェーン規制の施行前は、車が通れなくなるほどの大雪が降ると、除雪が完了するまで道路を通行止めにしなくてはなりませんでした。
通常通れるはずの道路が通行止めになると迂回しなければならなくなり、今度は別の道路が渋滞していました。
このような交通渋滞を減らすため、過去に大雪で通行止めがあった区域、坂道が多い、または急こう配な区間を中心に、規制を設けることにしました。
大雪の予報があれば、数日前から地域メディア(ラジオ、テレビ、インターネットなど)や道路情報板などで「チェーン規制」の告知を始めます。
地域住民や当日利用する人は事前に確認して、タイヤチェーンの準備を始めます。
もしタイヤチェーンがなければ、別の道へ迂回するか、予定を別日にずらして外出を控えるしかないのです。
ちなみに、チェーン規制中の速度制限は時速50~80kmくらいです。
どちらにしても、タイヤチェーンを装着していればあまりスピードは出せません。多少遅くても、事故にならないよう焦らずゆっくり走行しましょう。
スタッドレスタイヤのみでは大雪に耐えられない
チェーン規制が発令された区間は、必ずなにかしらのタイヤチェーンを装着していないと通行できません。スタッドレスタイヤのみでは認められていません。

雪にも強いスタッドレスタイヤだから、大雪でもへっちゃらだと思うけどな。
スタッドレスタイヤは、たしかに雪や氷の上でもアイスバーンを起こしにくいですが、大雪を掻き分けて進むほどの性能はないのです。
本来スタッドレスタイヤは、0℃近い真冬の気温でもアスファルトの上を安全に走行できるように開発されています。
タイヤに使われるゴムは、一般的なゴムと同じく気温の変化に弱いです。慣れない気温や温度にさらされるとゴムの劣化が早くなります。
そのため、30℃以上の真夏に耐えられるサマータイヤよりも柔らかいゴムを使用しています。ゴムの種類は違うものの、大雪には耐えられないのです。
私の知人は雪とは無縁な地域に住んでいますが、秋にはスタッドレスタイヤに履き替えています。「雪が降るかではなく、気温の変化で履き替えるの。」と教えてくれました。
それに、過去には、スタッドレスタイヤを装着した車が大雪で立ち往生を起こし、長時間も渋滞してしまった事例がたくさんあります。
なかには1000台以上も渋滞に巻き込まれてしまったり、道路が復旧するまで1日以上かかったり、物流やライフラインも滞ることもありました。
国土交通省はその事例を痛いほど経験しています。そのため、チェーン規制をかけるときにはスタッドレスタイヤのみで通行を認めていないのです。
カー用品店でも、冬にはスタッドレスタイヤを、大雪に備えてタイヤチェーンを、両方常備しておくべきだと推奨しています。
タイヤチェーンは大雪で走行できるものの、乾いた路面では走行できません。スタッドレスタイヤとは性能が逆なので、どちらも準備しておいた方がいいのですね。
4WDは重量が大きく下り坂で止まれない

自分の車は4WDだから、雪道や悪路でも動きやすいよ。
それでもチェーンがないと通れないの?
4WD車は悪路に慣れているため、雪が多い地域では人気ですね。しかし、4WDであってもタイヤチェーンは必須です。
4WDの難点は、重量が大きいことです。雪道の下り坂で止まろうとしたとき、重量が軽い車よりもブレーキがかかりにくくなり、制動距離も伸びます。
もし下り坂で急ブレーキをかけたとき、停まりたい位置で止まれなくなります。前に人や電柱があったら、ぶつかってしまいます。
スプレー式タイヤチェーンは対象外
また、タイヤに直接スプレーする「スプレー式のタイヤチェーン」も販売されていますが、これも認められていません。
この規制で許されたタイヤチェーンは、「確実にタイヤへ取り付けることができる」「安全に走行できる」ことが条件です。
スプレー式だと走行している間に効果が薄れてしまうため、「確実にタイヤへ取り付けることができる」とは言えないのです。
まとめ

- 布製タイヤチェーンの耐久性は、走行距離に表すなら雪や氷の上なら数百km、乾いた路面では80~120km程度である
- 布製のタイヤチェーンには特殊な合成繊維を使用しており、含まれる素材や表面の毛羽立ちにより雪道で効果を発揮する
- 開発当初は使い捨てだったが、現在の製品は、使用後に洗って汚れを落とせば繰り返し使える
- 布製のタイヤチェーンを装着して走行するときは、一般車両なら時速50kmまで、大型車両なら時速30kmまで速度を落とす
- 布製のタイヤチェーンは、JASAAの「規制適合品」と認められた製品なら、チェーン規制が発令されたときでも使える
- チェーン規制は、大雪による交通渋滞を少しでも減らすため、過去に大雪で通行止めになった区域を中心に設けることがある
- チェーン規制の場合、雪や氷に強いスタッドレスタイヤ、悪路に強い4WD車でもタイヤチェーンが必要となる
- スタッドレスタイヤは低温に耐えられるゴムを使用しているだけで、大雪での走行には耐えられない
- 4WD車は重量が大きいため、雪道、特に下り坂だとブレーキがかかりにくくなる
- スプレー式のタイヤチェーンは走行中にどんどん効果が薄れていくため、チェーン規制中には認められない
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