医療業界における専門用語って、たくさんありますよね。
とくに「人員配置基準」や「看護体制」は、看護師の働き方に大きく関わっていますが、いざ言葉の意味を聞かれると、あいまいな答えになってしまいがちですよね。
でも、よく知らないままでいると、転職した時などに「こんなはずじゃなかった」「こんなの聞いてない」なんてことになりかねません。
それに、きちんと理解していないことが、「こんなに大変なのにどうして看護師を増やさないの?」という疑問の原因かもしれません。
そこで、この記事では、「人員配置基準」「看護体制」という言葉の意味や、「常勤換算」の計算方法についても紹介していきます。
看護師の人員配置基準を知ることができれば、職場の人員体制や余裕度が見えて、転職先を探す時のポイントにもなりますよ♪
看護師の人員配置基準は施設ごとに定められている
人員配置基準とは、医療法に基づいて定められた、医療・介護の質を保つための基準で、病院や介護施設の規模・内容などによって決まっています。
ここで気を付けたいのが、人員配置基準は「最低基準」ではなく、あくまでも「標準」であるということです。
人員配置標準を満たさない場合であっても、患者の傷病の程度、医療従事者間の連携等により、望ましい一定の医療水準を確保することが十分可能な場合もあるため、最低基準ではなく、「標準」とされている。
厚生労働省 後期高齢者医療制度の準備状況 医療法に基づく人員配置標準について
と、医療法に基づき定められています。そのため、十分な医療サービスを提供できていれば、配置基準を下回っていても、必ずしも指導の対象とはならないようです。
その一方、必要な人員が確保されていないと判断した場合は、都道府県が改善指導に入ります。
う~ん、私は「十分な医療サービス」を提供するためにも、看護師さんが余裕を持って働くためにも、国が基準を下回らないようにきちんと定めてほしいなぁ、と思ってしまいました。
でも、それですぐに指導が入ったら現場も経営者も大変だし、看護師に限らず「ちょうどいい人員」って、難しいですよね(汗)
病院ごとの医師と看護師の配置基準を解説
人員配置基準は、入院している患者数や入所している定員数に応じて、医師や看護師、介護士、薬剤師などの人数が決められています。
医療施設と病床区分ごとの、医師と看護師の配置基準は以下の通りです。
表の中で数字部分は、「1」が医師や看護師(および准看護師)の数で、左側の数字が患者数です。
一般病院は「一般病床」「療養病床」「外来」のそれぞれに基準が定められています。
病床区分 | 医師 | 看護師および 准看護師 |
一般 | 16:1 | 3:1 |
療養 | 48:1 | 4:1 |
外来 | 40:1 | 30:1 |
特定機能病院は「入院」と「外来」によって基準が変わります。
病床区分 | 医師 | 看護師および 准看護師 |
入院 (病床区分による 区別なし) | 8:1 | 2:1 |
外来 | 20:1 | 30:1 |
療養病床を有する診療所は病床の区分はなく、また、医師は患者数に関係なく1人と定められています。
医師 | 看護師及び 准看護師 | |
区分なし | 1人 | 4:1 |
医療・看護の必要性が高い施設ほど、人員配置基準が高くなっていることがわかります。
例えば、特定機能病院の患者2名に対して看護師1名と聞くと、とても手厚い看護が受けられ、働く側も余裕がありそうに感じますよね。
ですが、特定機能病院は、一般の病院では対応できない疾患の治療を行います。
高度な医療を提供するために、最先端の医療を提供する体制が整っている一方で、看護師にも高度な看護技術が求められます。
このように、配置基準だけで、人員体制に余裕があるか判断するのは難しいですね。
人員体制に余裕があるかは、定められた配置基準を満たす人員を、確保できているかどうかが判断のポイントになります。
ですから、人員配置の基準を知っていれば、職場が配置基準を満たす人員を確保できているかどうかも、調べることができますね。
看護師の人員配置と看護体制の違いを解説!
看護体制とは、「何人の看護師を雇用する必要があるか」を定めた人員配置基準に対し、「1人の看護師が何人入院患者を受け持つか」を定めたものです。
と言われても、「ん?それって何が違うの?」と思いますよね。
というか、私自身がそう思いました。人員配置基準と看護体制の違いって、よくわからないですよね。
ご安心ください!違いがよくわからなかった私だからこそ、わかりやすくご説明します♪
人員配置基準との違いをざっくり説明すると、以下のようになります。
- 人員配置基準
医療法で定めらた基準
「最低基準」ではなく「標準」であり、必ずしも満たさなくて良い
何人の看護師を雇用する必要があるかという考えの「雇用配置」 - 看護体制
診療報酬制度中の配置基準
基準を下回る配置の場合、診療報酬が減算される
現場で実際に働いている看護師の数で労働力を換算する「実質配置」
なんとなくでも「違うもの」だということがお分かりいただけたでしょうか。
「看護師」の配置についても、医療法の基準では「看護職員」と記載され、看護師と准看護師の区別がされていない場合が多いです。
しかし、診療報酬上の看護体制では「看護師」と記載されている場合「准看護師」は含まれません。
「看護師および准看護師」または「看護職員」と記載されていない限りは「正看護師」のみが対象です。
このように、医療法の基準より診療報酬上の基準がより厳しい基準となっています。
7対1、10対1、13対1看護体制をそれぞれ解説
看護体制を7対1、10対1、13対1(または15対1)のどれにするかは、病院が受け入れる患者や、行う医療によって変わります。
では、どのような病院(病床)がどのような看護体制をとっているのかを、ご説明します。
看護師にとって、7対1看護体制では、高度な医療設備・技術を持つ施設でのキャリアを積めるというメリットがあります。
10対1看護体制の病院では、充実した医療環境で働きつつ、家庭や自分の時間もある程度確保することができるようです。
13対1看護体制の病院は、救急度の高い医療よりも、患者のケアを重視したい看護師向けといえるでしょう。
看護体制では、自分が「何人の患者を受け持つか」だけでなく「どのような患者を受け持つか」が見えてきます。
看護体制を理解すると、病院・病棟の役割がわかり、自分が希望する働き方に合った病院選びに役立ちますね。
7対1看護体制のメリット・デメリット
7対1看護体制が2006年の診療報酬改定で新設され、収入アップした病院がある一方、収入ダウンや倒産に追い込まれた病院もありました。
病院にとって7対1看護体制のメリットは、以下のようなものがあります。
- 看護師一人当たりが受け持つ患者数が少ないほど診療報酬が高くなり、病院の収入が上がる
- 多くの人材を確保でき、かつ、働き手の給与も比較的高く設定できる
働く側にとっても、設備の整った環境でキャリアを積める、比較的高い給与で働ける、などのメリットがあります。
このように聞くと、7対1にはメリットしかないように思える看護体制ですが、もちろんメリットだけではありません。デメリットには以下のようなものがあります。
- 基準を満たすためには、急性期や重症の患者を受け入れる必要があり、高度な医療設備を整えなければならない
- 手術などの医療行為に対して高い評価を得なければならない
そのほかにも、7対1看護体制には多くの条件があり、基準を満たすことは簡単ではありません。
国立の大学病院など、規模が大きい病院は看護師の人材確保や施設の充実に注力し、7対1の基準を満たすことで収入がアップしました。
一方で、地方の中小病院は大規模な病院と同じ配置基準を満たせず、収入がダウンしてしまいました。
その結果、入院患者数の縮小や病棟の閉鎖を余儀なくされ、病院が倒産するケースもありました。
また、7対1の基準を満たせない一般病棟を、ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟に転換した病院もあります。
しかし、地域医療を充実させるために、地方の中小病院はなくてはならない存在です。
地方の病院が救急患者を受け入れられなければ、中央の病院に救急患者が集中し、受け入れる病院の負担増や、受け入れ先が見つからないという事態が発生してしまうからです。
そこで、最近では併設の託児所を24時間運営にしたり、看護師寮を用意したりと、福利厚生を充実させる中小病院が増えています。
このように、地方の中小病院は働きやすさを重視することで、看護師の人材確保に取り組んでいます。
自分のキャリアプランに応じた職場選びの際には、「働きやすさ」にも注目したいですね。
看護師の人員配置は常勤換算でも計算できる
常勤換算とは、さまざまな働き方の人がいる中で、労働力を数値化するために考えられたものです。
配置基準の人数は常勤(フルタイム)の人数で設定されていますが、実際の職場では、短時間勤務(パートタイム)の看護師さんもいますよね。
フルタイムと短時間勤務とを、同じ1人の労働力として計算することはできません。
そこで、常勤換算という考え方を取り入れることで、労働力を「人数」ではなく「時間」で算出することができるようになりました。
「常勤」とは、週5日8時間勤務で、週40時間働いている人のことを指し、「常勤換算」で1名と考えます。
それ以外の勤務時間にいる人を何名と考えるかは、以下の通りです。
- 週5日8時間勤務=週40時間勤務
=1名 - 週5日4時間勤務=週20時間勤務
=0.5名 - 週4日5時間勤務=週20時間勤務
=0.5名 - 週2日5時間勤務=週10時間勤務
=0.25名
週5日4時間勤務で週20時間勤務の人は、週40時間の半分なので、0.5名とします。
人員配置基準を常勤換算で考えた場合を、患者3名に対して看護師(または准看護師)が1名必要な、一般病棟を例にしてご説明します。
入院患者が30名いる場合、常勤の看護師(または准看護師)が10名必要になります。
看護師(または准看護師)が10名いても、そのうち2名が週20時間勤務だと、常勤加算では9名となり、人員配置基準に1名足りないことになります。
人員配置基準を満たすには、週40時間勤務の人ならあと1人、週20時間勤務の人ならあと2人必要です。
このように、さまざまな働き方の人がいる場合、常勤の勤務時間で換算すると何名分になるのか、という考え方が常勤換算です。
常勤換算を時間で計算した場合の例を紹介
先ほどと同じく、入院患者30名の一般病棟を例にして考えてみましょう。
患者30名に対し常勤看護師が10名必要なため、週40時間勤務×10名=400時間が、配置基準を満たす労働時間となります。
- 40時間勤務×10名=400時間 → 配置基準を満たしている
- 40時間勤務×8名+20時間勤務×2名=360時間 → 配置基準に40時間足りない
- 40時間勤務×9名+20時間勤務×2名=400時間 → 配置基準を満たしている
- 40時間勤務×8名+20時間勤務4名=400時間 → 配置基準を満たしている
上記は計算しやすくするために短時間勤務を全て20時間にしていますが、実際の勤務時間は人によって異なり、その時間によって必要な人員数は変動します。
また、配置基準ギリギリの人員では、急病や休暇などで誰かが休んだ場合に、基準を満たすことができなくなってしまいます。
自分だけでなく、家庭の都合などで急な休みが必要になったり、働ける時間が限られるケースもありますよね。
それに、最低限の人員配置だと長期休暇を取ることもできません。
思うように休みが取れない職場で無理をすれば、体を壊してしまうかもしれません。
ですから、実際にはもう少し余裕を持った人員が確保されている職場で、働きたいですね。
まとめ
- 人員配置基準は医療・介護の質を保つための基準で、医療法に基づき、施設ごとに定められている
- 医療法の人員配置基準は、「患者数に対して何人の看護師を雇用する必要があるか」を定めている
- 看護体制は、診療報酬制度の中で定められた配置基準であり、「一人の看護師が何人の患者を受け持つか」を定めている
- 2006年の診療報酬改定で、それまでの10対1よりさらに手厚い7対1の看護体制が新設された
- 7対1看護体制は、設備の整った環境で経験が積め、比較的高い給与で働けるメリットがある
- 7対1看護体制は、急性期や重症の患者が多く、入退院も頻繁なため忙しいというデメリットがある
- 7対1看護体制によって、中央の大病院は収入が増えたが、地方の中小病院は収入が減り、病棟の閉鎖や倒産というケースが起きた
- 常勤換算は、さまざまな働き方の人がいる中で労働力を数値化するため、看護・介護に必要な人員を、時間で算出する考え方である
耳鼻科や内科など、病院にかかった時に「看護師さんて忙しそうだな~」と思いましたが、外来の「30対1」という人員配置基準を知り、「それなら忙しいわけだよな」と納得しました!
配置基準を知ると、受け持つ患者の数によって病棟の役割も違うことがわかりますね。
看護師という職業は、患者の命を預かる重要な仕事だからこそ、自分の時間や生活とのバランスを大切にしてほしいと思います。
看護師の人員配置基準を知ると、病院・病棟の役割がわかり、職場の人員体制に余裕があるかも見えてきますね♪
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